■ レスピーギ 交響詩「ローマの松」

 イタリア、ボローニャ出身の作曲家オットリ−ノ・レスピーギ( 1879−1936)によって、1924年12月に完成された交響詩である。当時彼は聖チェチーリア音楽院の教授を務めていた。このころ作曲された「ローマの噴水」「ローマの祭」と合わせ、ローマ三部作と呼ばれる。フィラデルフィア管弦楽団を自ら指揮して演奏するにあたり、彼はプログラムに次のように書いている。「『ローマの松』では、私は記憶と幻想を呼び起こすために、出発点として自然を用いた。たいへん特徴的な形で、ローマの風景を何世紀にもわたって支配してきた樹木は、ローマの歴史的な事件の証人となっている」。つまり、彼は古代ローマへ目を向け、ローマの往時の幻影に迫ったのである。また、彼は相当な教養人ではあったが、気持ちの上ではすこぶる単純で子どもっぽいところもあった。そのため、この曲は、古い時代への郷愁と過去の幻想が効果的に生かされていると同時に、しばしば新鮮でまばゆい子どもの感情を思い起こさせる。

 第 1曲「ボルゲーゼ荘の松」では、松の木立の間で子供たちが遊んでいて、輪になって踊ったり兵隊遊びや戦争ごっこをしたりしている。夕暮れのツバメのように叫び声を上げて興奮し、群れをなして行ったり来たりする子供たちの情景を表す速いテンポの曲を、練習では皆で合わせるのに苦労した。ホルンの高らかな響きが印象的である。

 第 2曲「カタコンブ付近の松」は、カタコンブ(初期キリスト教時代の地下墓所)の入り口に立っている松の木陰から聞こえる奥深い悲嘆の聖歌。第1曲とはガラリと変わった響きが、この会場全体の大気に漂い、神秘的に消えていくことだろう。

 第 3曲「ジャ二コロの松」は、ローマ南西部にあるジャニコロの丘の、満月の中に浮かぶ松と幻想的な月光。クラリネットのソロが哀しい。

 第 4曲「アッピア街道の松」は、アッピア街道の霧深い夜明けを見守っている松。果てしなく休みのないリズムが爽快である。トランペットがひびき、新しく昇る太陽の光の中を軍隊が街道を行進していく。その、古代ローマの進軍道路として使われた石畳は今でも残っているそうである。最初のピアニッシモから徐々に音量を増しフォルティッシモに至るのは、遠くから軍隊が近づいて来て目の前を通り過ぎる様子をあらわしたものである。

 実は私はこの原稿を書きあげたらすぐイタリア旅行に行く予定である。じかに接してきたばかりの古代ローマの情景とともに今日の演奏をお届けしたいと思う。

(sai)