ワーグナー  歌劇「さまよえるオランダ人」序曲

「さまよえるオランダ人」は、中世ヨーロッパに伝わる幽霊船伝説にもとづいて作られた3幕の歌劇で、1841年にパリで完成、1843年ドレスデンで初演された。台本の大筋はハイネの小説によるものであるが、ワーグナー自身のアイデアも随所に見られ、彼が1839年夏にイギリスに渡る際、洋上で暴風雨に遭ったときの苦難の体験が、作品に大きく影響を与えているとも言われている。

 オランダ人の船長は、洋上で大時化に遭遇した際、神を呪ってしまった。そのために、世の終わりのときまで嵐の中をさまよい続けるという罰を受けるが、同情した天使のはからいで、7年に1度、1日だけ上陸することを許される。そしてその日に、永遠の愛をささげる女性に出会うならば救済される、というものであった。だが、7年ごとの救済への希望は幾度となく打ち砕かれた。そうした7年目のある日、オランダ人はノルウェー人の船長ダーラントの娘ゼンタとめぐり会う。ゼンタもまた、オランダ人との出会いを予感しており、2人の愛は成就するかにみえた。その時、ゼンタに想いをよせる猟師エリックがゼンタに言い寄るのを見て、オランダ人はゼンタが裏切ったと思い込み、絶望して再び嵐の中へと出帆してゆく。ゼンタが、オランダ人を追って崖から海に身を投げると、オランダ人の船も沈没し、やがてオランダ人とゼンタの魂は共に昇天していく。

 以上が物語の簡単なあらすじであるが、本日演奏するのは、序曲のみである。この序曲は、歌劇全体が作曲された後に作られたため、全体を集約したような濃密さをもっている。曲は、海上の嵐の描写を背景としながら、「呪われたオランダ人の動機」と「ゼンタの救済の動機」とが対立的におかれ、この2つがいわば主題となり、それに水夫の合唱などが明るい気分をそえつつ、交響的な迫力と壮麗さを繰り広げる。歌劇全体の劇的な変化を、この序曲のみで表現することは、演奏する側の課題であり、醍醐味でもある。

(トロンボーン maybe navy)