■ ラヴェル スペイン狂詩曲

 モーリス・ラヴェル(1875−1937)の管弦楽作品は、明確な輪郭を作り出すリズムと、大胆かつ豊かな色彩の和声を用いた精緻なオーケストレーションが特徴です。構成のしっかりした形式の中で楽器群はその能力を高度に要求されます。結果、響きは絵画的というより造形的な〈描写〉を表現します。このスペイン狂詩曲もとても〈描写〉的で、聴き手は楽曲から想像させられる各人の〈描写〉を楽しむことが出来るでしょう。たとえば私の〈描写〉は‥‥。

 「プロローグ」  バスクの村に住む8歳のルェヴラ少年は明日の祭りに、両親と動物園へ行く約束をした。期待に胸を膨らませ、眠れない夢を見る。

 第1曲「夜への前奏曲」  閉園後の動物園ではひたひたと動物たちの神経質な足音が静かに響く。「ファ・ミ・レ・ド#」様々な足音が聞こえる。象のライオンの、熊の、ワニの鶏のペンギンの‥‥足音が‥‥。「祭りの目玉に今夜ここへ何かがやってくる」。  コンテナから下ろされたそれは、彩なす錦を身にまとい、月明かりにメタリックな体をくねらせて、うねうねと木に絡みつく。「姉さんあれは大きな錦蛇だね」2頭のコブラが闇にうごめく(クラリネット2本のカデンツァ)。「今夜はやけに蒸して暑いなぁ」象の親子は長い鼻で水を掛け合って、夜のシャワータイムを始めた(ファゴット2本のカデンツァ)。一泳ぎしたワニが上がってきてゆっくりと歩く。「ファ・ミ・レ・ド#」。

 第2曲「マラゲーニャ」  インドの草原を竹藪を岩場を軽快に走る白い虎。「若い頃の私はあんなに走ったのさ」年老いたベンガルの白い虎は蒼い月を見て昔を振り返る。「感傷的になったが、今じゃここに来る子供達の笑顔が俺の慰めさ」(コールアングレのレチタティーヴォ)。

 第3曲「ハバネラ」  この動物園で生まれ育ったフラミンゴは2歳。細く長い足、しなやかな首、ピンク色に染まる羽根。その美しく優雅な動きに見るものはため息をもらす。彼女は故郷のアフリカの広い大地を知らない。けれど最近、何故か彼女の中に故郷を求める心が生まれてきた。「この檻から飛び立つことが出来たら‥‥」。DNAに呼ばれて月に思いを語る。

 第4曲「祭り」  キビタキが長い尾を盛んに振って合図を送る(ピッコロ)。伝令のツバメが軽やかに飛び回る(フルート)。小さな猿が飼育員の腰からこっそり鍵を盗ったんだ。次から次へ動物たちの檻が開けられる。「人間達の寝静まっている間に港へ急げ!」「船が待っている。さっき錦蛇を運んで来た船だ!」「アフリカを経由してインドまで行くぞ」サイもカバも豹もチーターもキリンも鳥たちも急げ! 「私は年をとりすぎている。お前達に近道を教えよう」あのベンガルの白い虎がその役目を果たす。いつの間にか町のネズミや犬やネコ、鳥たちも応援に集まって、動物園から港まで長い長い行列が出来ていた。そして人間達が目を覚まし、祭りの支度をする頃には、船が港から離れていったのだった‥‥。  

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