■ プーランク 組曲「牝鹿」

 日本でフランシス・プーランク(1899−1963) の音楽が演奏される機会は、あまり多くありません。世田谷フィルもプーランクの曲を取上げるのは初めてです。ところが、いざ取り組んでみると、これが素晴らしいのです。こんなに生き生きと楽しい音楽が演奏される機会が少ないとは一体なんでだろう、といいたくなるほどです。

 プーランクは20世紀初頭に、ドイツ・ロマン主義やドビュッシーの印象主義とも一線を画して、フランス古典の伝統を系譜とする作風の仲間たちと「フランス6人組」を結成し、明確な調性と繊細な旋律による新古典主義を標榜しました。作風はきわめて多様ですが、そこに一貫するのは「洗練」といっていいでしょう。 「牝鹿」は、なかでも軽妙洒脱な作品です。原曲はバレエ音楽で、女流画家マリー・ローランサンの絵画を素材に、十数人の美女が優美な踊りを繰り広げながら、軽いタッチで恋の駆け引きをも織り込むという趣向です。初演時の舞台は、ローランサン自身が美術を担当した豪華版の公演だったと伝えられています。

 今日の演奏会用組曲は原曲から5曲を選んだもので、生気に満ち溢れた楽しいメロディと躍動するリズムに終始する25分です。

 第1曲「ロンド」は跳躍する肢体にコケティシュな風情も漂う面白さ。

 第2曲「アダージェット」は、マーラーの同名の曲から連想されがちな深い抒情とはうって変わって、足取りも軽やかな散歩の気分。

 第3曲の魅力的な「ラグ・マズルカ」は一つの謎です。というのはあまりラグしない、つまりジャズっぽくないのです。あるいはプーランクは、当時流行していたジャズにに色目を使ってそれを取り入れようとしたものの、本当はジャズが好きではなかったのではないかとの推理も成り立ちます。

 第4曲「アンダンティーノ」は、モーツァルト的な古典美の再現に成功した佳作。  そしていよいよ「終曲」は、プーランクの古典志向とユーモアとが融合した最高級のエンターテインメント。冒頭のテーマは紛れもなくバッハのブランデンブルグ協奏曲第5番の終楽章を彷彿させます。続く第2のテーマはモーツァルトの交響曲第38番「プラハ」終楽章の第2テーマそのものです。にもかかわらず、バッハやモーツァルトのパロディだとは少しも感じさせない品のよさこそ、プーランクの真骨頂といえるでしょう。  

 さて、本日のシェフ、マエストロ小田野は、世田谷フィルというどちらかといえば重い音楽に慣れた食材を使って、洗練の極致ともいうべきプーランクをどのように料理するかを懇切に教えて下さいました。私たちはそれに応えてお客様とともに古きよき時代のフランス音楽の美味を思う存分楽しみたいと思います。 

(ヴァイオリン N)